純粋倫理と科学 倫理文化研究叢書1
丸山敏秋著
倫理研究所/定価¥3,500
A5判上製 364頁
今日ほど、倫理への関心が高まっている時代はないのではないでしょうか。
倫理の荒廃を示す諸問題があらゆる分野で頻発し、
政治倫理にはじまり、
生命倫理、医の倫理、企業倫理、環境倫理、報道の倫理・・・等々、
まさに世の中に「倫理」が乱舞しています。
倫理が問われ、求められるものの、
そうした時代の期待に倫理学がしっかりと応えているのでしょうか。
また、国民の多くも、倫理を強く求めながら、
倫理の意味をしっかりと把握しているのでしょうか。
そのような状況を鑑みて、筆者はここに「倫理文化学」という研究分野の構築を提案する。倫理文化学とはさしあたり「多様な文化の基盤に見出せる倫理を探究し、統合的に研究する学問」と表現しておこう。そこでは、全体性・綜合性・体系性を志向する哲学の一分野として研究されてきた倫理学の成果を踏まえつつ、応用倫理学が扱う現代のさまざまな社会問題をはじめ、日常卑近な生活の場面にまで至る広範な文化のフィールドにおいて、人間の生き方としての倫理を探究する。
(序論「倫理文化学の構想」より)
改めて言うまでもなく倫理とは、「人のふみ行うべき道、人間関係や秩序を保持する道徳、人倫の道」(『日本国語大辞典』)であり、
倫理を探究する学問が倫理学です。
しかしながら、多様化する文化や価値観に適合するには、
普遍的価値を有する「倫理」とその探究が不可欠であり、
また、「環境倫理」に代表されるように、
倫理の領域を「人と人との関係」からさらに拡げる必要性が高まっています。
本書のタイトルにある「純粋倫理」とは、
社会教育者であり、倫理研究所の創立者である丸山敏雄が研究・提唱した、
福徳一致の「生活法則」としての倫理です。
自分も他者も共によりよく生きるために踏み行う「みち」であり、
いつ、どこで、誰が行なっても常に正しいといった普遍性が大きな特色です。
また、丸山竹秋(倫理研究所前理事長)が1985年に提唱した「地球倫理」は、
地球上の無生物から太陽や星などの天体にまで倫理の対象が拡げられています。
そうした「生活法則」としての倫理の裾野をさらに拡げ、
古今東西の倫理思想とその調査研究を視野に収めながら、
真に現実問題に寄与貢献する「新しい倫理学」を構築することが、
著者の構想する「倫理文化学」の眼目の一つです。
その実現へ向けて、
多様な研究成果を計画的に刊行する「倫理文化研究叢書」の初巻として本書は誕生しました。
倫理文化学の輪郭を示すとともに、
その一領域を担う、純粋倫理の学術的側面を明らかにすべく、
心理学や近代科学に照らした論考や、
科学と関連の深い丸山敏雄の思想に関する論考をまとめています。
学問は細分化される傾向にあるが、「人のみち」を扱う倫理学は本来、細分化を拒むべきものではないだろうか。「倫理」をキーワードにした学問的な研究領域として、倫理現象の調査や倫理思想の研究を丹念に積み重ねながら、今という時代に生きる人間に生き方の指針を与える力を持った新しい倫理学を構築しようとする夢を、抱き続けたいと願う。
夢は実現の導き手であるのか、実現しないから夢であるのか……。どちらであってもいい。夢は抱くことに意義がある。
倫理文化学は、倫理学の壮大な夢でありたい。
(序論「倫理文化学の構想」より)
多様な文化の基盤をなし、時代・社会・民族の垣根を越えて、
あらゆる人々の生きる指針となりうる新しい倫理学を構築する。
本書はその序論であり、挑戦の書です。
《目次より》
序 論 倫理文化学の構想
第一節 倫理と文化と学問
第二節 倫理文化学の内容と展望
第一部 倫理と実験
第一章 新しい倫理学への挑戦
第二章 科学に立脚する倫理
第三章 自然科学と実験『実験医学序説』をてがかりにして
第四章 科学と因果律について
第五章 実験倫理学と経験科学
第六章 目的論と実験倫理
第七章 実験倫理学の方法的吟味
第二部 物の科学と「一」なる次元
第一章 「一」を探求する意義
第二章 ニューサイエンスを回顧する
第三章 隠れた内蔵秩序の発見― デイヴィッド・ボームのコスモロジー①
第四章 断片から全体へ― デイヴィッド・ボームのコスモロジー②
第五章 全体性を重んじる医療
第六章 「一」なるフィールドへの接近
第七章 万象の「原形」と二極分化― 三木成夫のコスモロジー
第三部 心の科学と「一」なる次元
第一章 実験倫理学とユング心理学
第二章 丸山敏雄と至高経験― マズロー心理学からの一考察
第三章 トランスパーソナルな次元へ
本書は「倫理の本棚(オンラインストア)」にて取り扱っております。