われ、日本をかく語れり 倫理文化研究叢書5
竹本忠雄著
倫理研究所/¥3,500(税込)
A5判上製 367頁
世界中のあらゆる文化の基盤に立ち、
多様な倫理現象の調査や倫理思想研究の蓄積により、
現代の人間に生き方の指針を与える力を持った倫理学を構築する――。
倫理研究所のめざす「倫理文化学」はそうした“夢”を内包しています。
その実現へ向けて、多様な研究成果を計画的に刊行する、
「倫理文化研究叢書」の5作目となる本書は、
著者が長年にわたる研究と、海外で発表した、
「日本の精神文化」についての講演録と・対話集です。
文芸・美術評論家であり、
20世紀中期を代表する作家、アンドレ・マルローの研究者としても高名な著者は、
11年にわたりパリに滞在して執筆や講演活動を行ない、
ヨーロッパ各地で正しい「日本」を伝える啓蒙活動に心血を注いできました。
出国に先立って日本の精神文化復興を念ずる駆け出しの評論活動に入っていたので、パリ生活でも意識はその延長線上にあった。日本での専攻はフランス文学で、コンクールもその部門で受けたが、内面は「日本的霊性」とは何かの問いでいっぱいだった。
パリはフランスを発見させてくれるところではない。自国を、おのれ自身を発見させてくれる場である。その力たるや大したもので、おそらくそれはローマ文明の後継として「ユニヴァーサル」たらんとする意志と矜持からくるものかもしれない(中略)文明の空気が働くからである。愛にも似て、それは、「分かってくれる」という歓喜を掻き立てる。こうして私は一つの国と深い交わりの関係に入り、その国の言語で己自身を、日本を語ることに云いがたい愉悦を感じ、それを「使命」と感ずるまでになっていた。(「緒言」より)
文学・芸術の研究者であると同時に、
誇り高き「日本人」であるという矜持が、
著者を東欧での啓蒙活動へと駆り立てました。
「収斂」をキーワードに、
異なる指標を持つとされていた東西の文化が、
神秘的、霊的思想において同質化されていく意義や必然性を論証した講演は、
ヨーロッパ各地で大きな反響を呼びました。
「講演編」には、著者の50年間のフランス語講演録の中から、
碧眼の聴衆を感動させた5講演を精選し、和訳して収録しています。
「対話編」では、アンドレ・マルローのほか、
バレエ界の巨匠、モーリス・ベシャールとの対話を収録。
フランスを代表する二人の知性が、日本で見つめ体験した、
神性や霊性について語っています。
解説では、
宮崎大学准教授の吉田好克氏が次のように綴っています。
若くしてフランスから与えられた栄誉(昭和五十五年、文芸騎士勲章受賞)にしても、アンドレ・マルローの篤い信頼を勝ち得たことにしても、アカデミー・フランセーズ文学大賞受賞作家オリヴィエ・ジェルマントマ氏との間に結び得た強い絆にしても、それらは、先生の卓越したフランス語力を別にすれば、多くのフランス文学者とは異なり、先生が西洋文学や芸術の研究の傍ら、確固たる日本人であろうとされ、自国の文化や歴史について――愛と矜持に裏打ちされた――研鑽を絶えず積んで来られたから可能であったということです。(中略)
ジェルマントマ氏もその著書『日本待望論』において、竹本先生について次のように書いています。「彼なしでも日本を発見できたでしょうが、しかしそれは、彼の深い視線のお蔭で知った日本とは絶対に別物となっていたでしょう」と。(「校訂者解説」より)
大地震による津波に限らず、政治外交上の問題も含め、グローバル化の荒波により、
日本はあらゆる意味で浮沈の瀬戸際に立っていると著者はいいます。
日本文化の防人として異国で孤軍奮闘してきた著者が、
自国の文化を、ルーツを、本質を、
国際社会で伝えることのできる人材の育成を願い、
襷を次世代の若者に託す思いで本書を著しました。
ご一読ください。
《目次より》
緒言
講演篇(一)
『雨月物語』と日本の幻想世界
「国際スタイル」のかなた―日本現代版画展に寄す
象徴と神話―日本文化の展開
文化の対話―ヨーロッパと世界
武士道と日本的霊性―武蔵の場合
講演篇(二)
アンドレ・マルローと那智の滝―宇宙よりのコンフィデンス
序言 ベルナール・フランク
序論
第一章 芸術と死
第二章 芸術と霊性
第三章 芸術といのち
第四章 いのちと宇宙
対話編
日本における死 アンドレ・マルローとの対話
輪廻転生と三島由紀夫 モーリス・ベジャールとの対話
付録
『アンドレ・マルローと那智の滝』原著への評価
竹本忠雄 ヨーロッパ活動年譜
校訂者解説
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