個人指導真剣勝負
田中範孝著
新世書房/¥1,200 (税込)
B6判 264頁
倫理研究所は民間の社会教育団体として、
戦後の日本と歩みを同じくしながら、
「倫理運動」と称した生活改善・社会教育活動を展開してきました。
唱導しているのは「純粋倫理」と呼ばれる生活法則であり、
誰もが守れば幸福になる普遍の法則です。
純粋倫理の実践により、
人生の危機とも言うべき大苦難を乗り越えた、
奇跡的な体験が数多く生まれています。
本書は、その苦難救済の原動力をなす、
「個人指導」と呼ばれる倫理指導の醍醐味を、
余すところなく伝える一冊です。
すでに喉頭まで結核が広がり、食べ物も喉を通らない石井が、母親に促され、すがるような思いで訪ねたのは福岡県大牟田市大黒町にある山口救の私宅だった。
(中略)
衰弱しきって、崩れるように目の前に座り込んだ石井に対して、山口は、
「何でもよかけん、まず食うもの食って、もすこし元気をつけてから来い」
と石井を帰した。食欲はほとんどなかったが、尊敬する山口にそう言われて、石井はむりやり食べ物を口に押し込んだ。
四、五日して、再度山口宅を訪れた。
満面に笑みを湛えながら、山口は石井を迎えた。
「飯、食ってきたか」
石井が頷くと、山口は表情を改めた。そして凜とした声で言い放った。
「お前、もう死ね」
続けて、
「わしが葬式を出してやるけん、安心して死ぬとよか」
と言った。
石井は山口のその言葉に深く頷いた。〈こんな人に葬式を出してもらえるなら本望だ。よし、死のう〉と思った。
それで山口の指導は終わりだった。帰ろうとする石井の後ろ姿に、山口の声が飛んだ。
「死んだつもりで明日から働け!」
それはまさに起死回生の一言であった。
建築板金の工員であった石井は、その翌日から床を上げて働き始めた。そのまま石井の病は影を潜めてしまったのである。(「V・直感の威力」より)
倫理指導のめざしているところは、
単に苦難解決のためのテクニックや方策の伝授ではなく、
難関に直面している人の心のくせや、
倫理から外れている生活を見抜き、
心の奥底に眠る純情を引き出すところにあります。
他者に対する限りない愛情こそが個人指導の源だと著者は言います。
相談する者とされる者が、
〝真剣勝負〟のごとく対峙する「個人指導」によって、
どれほどの人々が人生の大転換を果たしてきたか。
そうした人々の記憶や資料に埋没している数々のエピソードを発掘することにより、 より多くの人々に純粋倫理の素晴らしさを伝えたいという思いから、
著者は地道に取材を重ね、本書を上梓しました。
本編では、選りすぐりの指導例を紹介した。それだけにインパクトも強く、読者の中にはこれぞ倫理指導と思われる方も多いことだろう。しかし、既述のように、倫理指導にはさまざまなパターンがあるのであって、本書に取り上げたようなドラマチックなものばかりではない。むしろ日常の中のちょっとした気づきによって生活の軌道修正をしていくような、地味で素朴な指導のほうが実際は多いだろうし、それもまた立派な倫理指導であることを申し添えておきたい。(「あとがき」より)
一般的な人生相談やカウンセリングとは一線を画す、
個人指導の深く豊かな味わいを、
純粋倫理の豊かな学びと実践の世界を、
本書から汲み取っていただければ幸いです。
《目次より》
Ⅰ・真因を見抜く
Ⅱ・ひと言の重み
Ⅲ・血が通う指導
Ⅳ・常識を超えて
Ⅴ・直感の威力
Ⅵ・妥協せず
Ⅶ・溢れる慈愛
※本書は現在販売しておりません。(2016.10.17記)