倫理の本棚ブログ

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じっと見つめる ― 小さな愛の物語

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田中範孝著
新世書房/¥1,000 (税込)
四六判 96頁


本書には「じっと見つめる」にちなんだ5つの物語が著されています。
物語とはいえ、いずれも実際にあった話です。

第一話「人になる」は、
かつて広島の元宇品小学校で教鞭をとられていた加藤章さんと ある生徒の物語。

小学三年生になっても自分の名前すら書くことのできないその生徒は、
「まったく伸びる見込みがない」と、大方の教師がさじを投げた子でした。

困った子を受け持ったと悩んだ先生でしたが、
尊敬する人に相談すると、
「その子のいいところを見つけてほめてみたら」と言われます。
「ほめるところがない」と言い返す先生に、
その人は、ニコリと笑って「だからほめるんです」と答えました。

 

きっとその子は、
これまで だれからもほめられたことなど、なかったでしょう
むしろ、何をやっても、ダメダメと、
なじられ、けなされて、
やる気を殺がれてきたのではないでしょうか。

ほめられれば大人でもうれしいもの。
認めてもらえればやる気も出るし、
元気も出てくる。
伸びる芽もきっとそこから育ってくる。
釈迦に説法かもしれないけれど、
ほめること、認めることは教育の原点ではないでしょうか。
まずはその子のそのままを認めて、
ほめてみてはどうでしょう。

 

その言葉は先生に、
いつしか教師になったときの燃えるような情熱を取り戻させました。
翌朝、軽やかな気分で学校へ行き、
登校してくる子供たちに「おはよう!」と声をかけていたその時、
先生の背広を引っ張るのはあの生徒でした。
先生の口から思わず、「やあ、おはよう」と、言葉が出ました。

  

うなずいた少年に、先生は続けた。
「ご飯食べてきた?」
「うん」
「そうか、偉いぞ。一緒に勉強しような」
「うん」
少年は恥ずかしそうに、ニッコリほほえんだ。
それは初めて見る少年の笑顔だった。

〈この子もこんな明るい顔をするときがあるんだ〉
と思うと、先生の胸に熱いものがこみあげた。

 

このときから、先生は少年とまっすぐに向き合い、
じっと見つめて、少年ができることを心の底からほめました。
それに応えるように少しずつ少年の学力は向上していき、
五年生に上がるころには他の生徒についていけるようになったのだそうです。
 

ほめるということは、温かい愛情とうるおいを
そそぐということである。
太陽の熱と光、そして水のうるおいによって
すべての物が育ち栄えるように、
熱と光と水は、万物が生きるための大切な条件である。
人もまた、ほめることによって、
その人の中にある無限の能力が芽を吹き出し、
素晴らしく伸びていく。

 

溢れるような情報の洪水の中で暮らす現代人にとって、
今、求められているものこそは、物事の深層を見抜く、
「じっと見つめる」眼差しではないかとの思いから、
著者は本書を上梓しました。

「見つめる」ことで生まれた5つの感動の実話を、
ぜひ、ご一読ください。

  

《目次より》

第一話 人になる

第二話 ひび割れの手

第三話 二人三脚

第四話 姑を詠う

第五話 母の勁さ

 

※本書は現在販売しておりません。(2016.10.17記)

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