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倫理の本棚ブログ

倫理研究所の出版物をご紹介します。

「歌集天地」鑑賞―丸山敏雄の歌と心境

書道・短歌

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田島荘平著
新世書房/定価¥1,200(税込)
B6判上製 304頁

 

著者は、『歌集天地』(丸山敏雄著・新世書房刊)より、
毎月一首を抜粋して解説し、
月刊『しきなみ』(短歌誌)に23年間にわたり連載しました(昭和39~62年)。
掲載された286首の解説を一冊にまとめたのが本書です。
丸山敏雄の高弟であった著者が、
じっくりと鑑賞しながら歌の背景まで詳しく述べています。

内容の一部をご紹介します。

 

大海の五百重の潮路光立ちしきなみよする大和国岸(やまとくにぎし)

 

「しきなみ」は頻波、つまり頻りにうちよせる波の意。「渡つ海寄せてはかへるしき波の数限りなき君が御代かな」― 玉葉集(一〇七四)・二条院讃岐 ― の用例があります。

先生が短歌会の名を「しきなみ」と定められたのは、昭和二十一年という日本の苦難の時代に、重畳する苦難を波にたとえて、あえてこれに敢然と立ち向かっていこうという決意を示されたという事であります。『しきなみ』は、われわれの歌誌の名になった言葉でもあります。

この歌は象徴的なムードがあり、美しく、歌の格が整って、大きい。

先生は波を苦難にたとえられましたけれども、苦難という言葉の持つ暗さ、弱さといったものは微塵も感じられません。むしろ美しく光り輝いたもののように感じます。先生は苦難というものの本質を、そういうものとして道破しておられたのでありました。

天津日は扇ぎ返せし入道や写せし経の文字のやさしさ

 

「天津日」とは日のこと、太陽。「入道」は平清盛のことで、「夕日を扇でまねきかえしたというほど権勢をきわめた清盛の、この写経の文字の意外にやさしい」という意味の歌であります。(中略)

写経はむかしから罪障消滅と鎮魂という意味があるといわれ、源平の争いにしのぎを削った当時にあって、清盛はそうした意味で一門の写経を奉納したものでありますが、同時に書道のほうから見ても、その豪華さにおいて歴史的な意義があります。

書道にも深い造詣を有せられた先生が「写せし経の文字のやさしき」と歌われた感慨が、ずしりと重みをもってせまってくる一首であります。

寒に入り望の夜なれば高杉のまほらにありて月すみわたる

 

「寒に入り」とは寒入りのことで、一般に小寒の入り、一月五日ごろのことをいいます。「望の夜」は満月の夜のこと。「まほら」は古語で、すぐれてよい処の意ですが、「ま秀ら」とも考えられ、「ま」と「ら」はそれぞれ接頭語、接尾語と考えると、「秀」は「梢」という意がありますので「梢のほうのよい処」という意と思われます。

「寒に入って満月の今宵は、高杉の梢の上のほうの空に、月が澄みわたって輝いている」という意味で、寒月の澄み切った美しさ、それを武蔵境の高杉庵から静かに仰いでおられる先生のご様子がうかがわれて、心きよまるような感じに打たれる歌です。

寒い夜の、高く澄んだ月の、浄らかな光、それは先生の特に好まれたものではなかったかと思います。

 

短歌は「写生道に出発して純粋客観の奥地に住むにきわまる」と言った丸山敏雄は、
写生道に徹して奇をてらわず、
見た美しさをありのままに、素直に淡々と歌いあげました。
また、その歌からは落胆や恨み、生活の不足や憂いなどは微塵もうかがわれず、
常に明朗な心で歌を詠んでいることも特長のひとつです。

本書では、歌に込められた想いや特長の一つひとつが、
丁寧な解説により鮮明に浮かび上がってきます。

 

短歌はまことに、作者の心の表現であります。言葉や文章にしたならば厖大な量を必要とする事柄や心の奥底を、わずか三十一文字で表現してしまうわけですから、そのくめども尽きぬ深き味わい、余韻をくみとって頂きたいものと存じます。私のこのつたない『歌集天地』の鑑賞が、丸山敏雄先生の歌の、さらにはその人間像の研究の一助となればと祈念しています。(あとがきより)

 

歌集天地』を深く味わう一助として、
ぜひお勧めしたい一冊です。

 

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