母性とたましい 倫理文化研究叢書3
丸山敏秋
倫理研究所/¥3,000
A5判上製 362頁
倫理文化学の樹立をめざし、
多様なアプローチによる研究の成果を発表する倫理文化研究叢書。
今回取り上げるテーマは「母性」と「たましい」です。
近年の日本において壊れかけ、
消失しかけているものの典型が家族における「母性」であり、
人間そのものにおいては「たましい」であり、
その回復が急務であるという著者の想いが込められています。
自分主義は、家庭にまで深く侵入した。「個食」や「孤食」という言葉が表すように、家族がバラバラになり、健全な家族関係を蝕んでいる。時代の変化と共に、家族のあり方も変容を余儀なくされるが、それが破壊への道のりであるとしたら、何としてもくい止めなければならない。すでに何年も前から、危険を知らせる警報が大音量で鳴り響いている。離婚の増加、幼児虐待、不登校や引きこもり、家庭内暴力……。一見平穏そうな家庭でも、家族の絆は薄れ、問題解決能力が失われつつある。
あたかも意図的に消されたかのように、母と子の絆を積極的に論じるような書物は書店に少なくなった。代わりに「母性が大切だというのは神話にすぎない」といった母性否定の論調の本や論文が目につく。いわゆるフェミニズム系統の本である。
自分主義の風潮に乗じて、社会解体をもくろむフェミニズムの猖獗ぶりは目に余るものがある。それが一過性のブームに止まらず、家庭をはじめ種々の領域に浸透していることが、現代日本の危機を後押ししているのは明らかといえよう。
そうした危機意識に立って、ヒトを人としてはぐくむ母性、および人間関係の原点である親子の絆を再考してみたいと企図した。(第一部「序言」より)
著者が考察の際に常に顧慮しているのは「純粋倫理」と呼ばれる生活法則です。
その提唱者である丸山敏雄(1892~1951)は、
『無痛安産の書』『育児の書』『学童愛育の書』をはじめ、
家庭教育や性の倫理に関する諸論文を著し、
「親子相関の原理」を世に問うなど、
親子の絆や母性を考察する上で拠り所となる数多の成果を残しています。
第一部ではそれらを傍らに置きながら、
現代日本のさまざまな家庭問題をみつめます。
そして、純粋倫理の実践事例に照らしながら、
母性や親子の絆とその重要性について論考しています。
第二部は、「たましい」をめぐる考察です。
世界中に行き渡った科学技術を軸とする近代文明は、
家庭や母子の中に限らず、
多方面で「分断化」ないし「孤立化」という現象を招きました。
その顕著なものに「たましい」があると著者は言います。
物質次元を対象として発達した近代科学においては、計量が困難な精神の領域は、扱い難いために長く研究対象から排除されてきた。(中略)
自然科学は対象を計量できる物質に限定することで飛躍的な発展を遂げたのであるが、それは同時に唯物論という一元的な認識を一般化することに繋がった。唯物論はおのずと虚無主義を招来する。人間は死ねば肉体は元素に戻り、他に何も残らないとなると、〈人生は虚しくはかない〉と考え、〈生きている時がすべてだ〉〈生きているうちに精一杯楽しもう〉とする享楽的な生き方が無意識のうちにも主流となる。
唯物論が氾濫する中で、果たして人間の精神は安定を保てるのかどうか。(第二部「『たましい』を考察する意義」より)
亡き人は無き人なのか――。
本書では「たましいはどう考えられてきたか」を示す文献を渉猟しながら、
唯物論の問題点を踏まえて、
現代人が見失いかけている「たましい」を問うことの意義について、
さまざまな角度から考察しています。
《目次より》
緒言
第一部 母子の絆と生命
序言
第一章 母子一気の始まり
第二章 胎児の能力と出産の問題
第三章 母子の絆とその破綻
第四章 男女の性差と母性本能―母性の特質と機能①
第五章 マトリックスと基本的信頼―母性の特質と機能②
第六章 親に対する子供の複雑な心理―母性の特質と機能③
第七章 感情の抑圧と「闇教育」―アリス・ミラーによる警鐘①
第八章 負の世代間連鎖は断てるか―アリス・ミラーによる警鐘②
第九章 「捨て育て」再考―丸山敏雄の育児論
第十章 テレビの害から身を守る
第十一章 胎児に尊厳はあるのか―人工妊娠中絶をめぐる問題①
第十二章 丸山敏雄の産児制限批判―人工妊娠中絶をめぐる問題②
第十三章 性と生命の尊厳を伝える―人工妊娠中絶をめぐる問題③
第二部 「たましい」をめぐる考察
序言
第一章 「たましい」を考察する意義
第二章 「たましい」の確信―小林秀雄の場合
第三章 「たましい」が在るかどうかを問うこと
第四章 子供の「たましい」
第五章 胎児記憶と「たましい」
第六章 平田篤胤が探求した死者の世界
第七章 平田篤胤が記録した生まれ変わり
第八章 死後世界とエルの物語
第九章 臨床体験が意味するもの
第十章 死と向き合って得られたもの―エリザベス・キューブラー・ロスの挑戦①
第十一章 臨死と死の意味―エリザベス・キューブラー・ロスの挑戦②
第十二章 生きることの意義―エリザベス・キューブラー・ロスの挑戦③
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つねに活路あり
丸山竹秋著
新世書房/¥900(税込)
新書判 320頁
私たちは生きていく上で、大なり小なり問題を抱えます。
なかには一朝一夕には解決できない問題もあるでしょう。
そんなときは、そうすればよいのでしょうか。
著者は次のように言います。
「もうダメだ」とは、人間がその時勝手に思いこんだものにすぎない。「ダメ」とは、でたらめ判断である。「ダメな時でもダメでない」と勝負を捨てない。それで勝つのである。執念深いヤツと嫌われても、恐れることはない。
執念深いとは悪い言葉のようである。しかし執念とは深く念じて動かない心のことだ。いわば不動心である。よいこと、人生に意義のあることに対して、不動の心、執念をもつことが、なぜ悪いか。つねに活路があると念じ、信じ、動かず任務を尽くそうとすることがなぜ悪いのか。それこそ、すばらしい意義のある尊いことではないのか。
活路がないと思う心が活路をつくらないのである。「ダメ」と思う心が「ダメ」をつくるのである。物をつくる時、商売をする時、家事にあたる時、芸事をする時、学問、芸術、政治その他何でも同様だ。
こうした大確信をもつに至ったのは、筆者自身が幼い時から学んできたこと、体験してきたこと、また他の人にすすめて体験してもらったことなどによる。それらをさらにこまかに、いろいろな角度からまとめたものが本書の内容である。(「まえがき」より)
問題のあるところには必ず活路がある。
そして、問題解決の糸口は必ず自分自身の中にあると著者は説いています。
だいたいのところ、悩みは自分自身のわがまま、小さなせまい考え、利己心(エゴ)などから生ずることが多い。悩みにつきあたったとき、自分自身の得手勝手な欲、または他人のことをそっちのけにした自己中心的な動き、あるいはちっぽけでせまくるしい考えなどがありはしないかとふり返ってみる。思いあたることがなくても、率直に、素直に、そうしたものがありはしないかとまわりの人に尋ねてみることだ。配偶者でも、子どもにでも、友人にでも聞いてみたらよい。かならずやよい意見が聞かれるであろう。
それだけの謙虚さがあれば、そうした悩みは解決できるものである。他人にそうした意見や批判を聞くだけの雅量をもち得ないならば、あなたはそれだけ偉ぶっているのである。それだけ自己中心なのである。だから悩むのである。(第一章「難関と前進」より)
また、悩み迷った末に決断をくだす場合、
何を根拠にし、何を拠り所にするのかについて、
以下のようにアドバイスしています。
右にするか、左にするか。決断をくだしたあとの自分のとるべき責任をまずはっきりさせると、逆にその決断が容易にくだせるものである。責任をどうとるか。あやまる。弁償をする。任をしりぞく。自分の一切を投げうって処置をまかせる。そのほか責任のとりかたはいろいろあるであろう。こうしたとき、自分の小さな利益に執着せず、赤はだかになってもよいと覚悟すると、右か左かの方向を容易に決断することができる。こうした意味でも自分自身だけの欲望にとらわれていると、決断はしにくいものである。思いきって、すべてを捨てるときに、おのずから方向はひらけてくる。
ある人は、よしと気づいたことは、そのまま行なう。今日やるべしと気づいたことは明日や明後日にぐずぐずのばさないということを徹底的にやってみた。(中略)これを朝から晩まで一年も二年もずっとつづけて「気づくと同時に行なってみた」その結果気づいたときが最良の好機で、このときがもっともよいときであり、しやすいときである。だから何ごとにも気づいたときに実行する以上によい時期はないことが実証されたのである。(第四章「油断と決断」より)
苦難と幸福は表裏一体です。
「苦難のないところに幸福はない」と言い切る著者の、
真心からの言葉が胸を打つ一冊です。
《目次より》
第一章 難関と前進
1問題点はどこだ/2悩みの種類/3失敗は天恵/4すべてはわが応援団……
第二章 知恵は無限
1先のことは分からない/2不幸な境遇を喜べ/3倫理実践が開運の鍵……
第三章 禍福は巡る
1悩みの解決/2いたる所に明暗あり/3持病に感謝する/4死ぬほどの痛み……
第四章 油断と決断
1どういうときケガをするか/2交通事故の真因/3心のたるみが事故を生む……
第五章 実践の威力
1まず姿勢を正せ/2形が先か心が先か/3使わなければ退化する……
第六章 願いと幸福
1願いをかなえる/2信念ある生活を/3幸福について……
倫理研究所ホームページ内
「倫理の本棚(オンラインストア)」で販売しています。
新世(2017年1月号)
倫理研究所/¥200
A5判 112頁
「一年の計は元旦にあり」というように、
新年を迎えるにあたり、
《新しいことにチャレンジしたい! 》
と願う方も多いのではないでしょうか。
そこで、1月号の特集は「チャレンジしよう」をテーマにしました。
「新に挑む」にはどの様な視点が必要で、
どのような心を培えばよいのか、
倫理研究所研究員による対談をはじめ、
登山愛好家の佐々木茂良さん、歌手の秋元淳子さん、
地雷問題解決をめざし平和教育の講演活動に携わる
鬼丸昌也さんの体験レポートを通してお伝えします。
「途中で疲れて座り込んでしまう子供もいます。中には、『どうしてできないの! 』と叱る親御さんもいますが、まずは過程を褒めてあげて欲しい。〈やってみよう〉と挑戦することに意味があるんだから。富士登頂じゃなくてもいいんです。人にはその人が夢中になれるものが何かあるはず。たとえ失敗しても、その経験は、必ずどこかで活きてきます」(佐々木茂良さん)
「工夫次第で時間はつくれます。諦めず努力を続ければ、周囲の人も応援してくれるのではないでしょうか。私も、家族、助言してくださる方、多くの人のお陰で今までやってこられました。(中略)感謝の心をもち、心から願い続ければ必ず伝わり、道も開けていくように感じます」(秋元淳子さん)
誰でも最初の一歩を踏み出すときは不安があるものです。最初の一歩は小さな一歩でもいい。小さな一歩なら、万一うまくいかなくてもやり直しができます。まずは目標までの工程を細分化し、できることからコツコツと積み重ねる。そうすればどんな目標もクリアできるのではないでしょうか。(鬼丸昌也さん)
連載の「新世言」では、国や自治体の施策として、
支援の重要性が叫ばれ始めている「家庭教育」について、
陥りやすい間違いや注意しなければならない点、
忘れてはならない点について、
「薫化」や「共育」という視点に立って提言しています。
長年「体験記」のタイトルで読み継がれてきた会員手記は、
本号から「実践の軌跡」と名称を変え、解説が付記されています。
また、「美しきあきつしま」「古典を旅する」「和食のある食卓」など、
日本の伝統や文化を基軸とした新企画も登場しています。
ぜひご一読ください。
《目次より》
巻頭言
・新世言「家庭教育を推進するために」丸山敏秋(倫理研究所理事長)
巻頭連載
・歩み続けるひとびと「気と骨」(82)-加藤源重(福祉工房あいち理事長)
特 集
・チャレンジしよう
・トーク「真に豊かな時代の創造に向かって」
・レポート①「頂への道も一歩から」佐々木茂良(登山愛好家)
・レポート②「思い切って枠を外して可能性を広げよう」秋元淳子(歌手)
・レポート③「自分にしかできないことは必ずある」
鬼丸昌也(認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者)
新連載
・実践の軌跡「楽しい笑い声が我が家の財産」「妻の助言に込められた深い思い」
・美しきあきつしま「人吉・球磨」
・古典を旅する「古事記を読み解く」安田登(能楽師)
・大地に生きる「リス」宮崎学(写真家)
・心とからだのすこやかライフ「姿勢をチェックしよう」北条みゆき(エッセイスト)
・私の家族「父がいて母がいて」椎名誠(作家)
・身の丈ライフ「衣・食・住」いしぐろゆうこ(イラストレーター)
・和食のある食卓「粥に十徳あり」藤井まり(精進料理研究家)
連 載
・明日へのエール(25)「国と国をつなぎましょう」
・グローバル時代の倫理運動(3)「台湾・中華民國倫理研究学会①」
・わくわく子育て親育ち(12)「祖先を敬う姿勢は、率先して示しましょう」
・親と子のページ(6)「ようこそ!『子育てセミナー』へ」家庭倫理の会八幡
・切り紙遊びの十二カ月(13)「鏡餅」イワミ*カイ(ハンドクラフト作家)
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